「ムッシュ・ラバクリ」

 十二月に入って、どんより曇った空から今にも雪が降り出しそうな寒い日にな ると、暖かいストープのそばで、きらきら輝くクリスマス・ツリーを眺めながら 楽しく過ごした子供の項のクリスマスが思い出されます。

 また、それと同時に、赤ら顔で白いひげをはやし、大きな鼻の、まるでサンタ クロースその人のようだったムッシュ・ラバクリの顔が浮かんできます。

 ラバクリさんは故国のフランスに帰ろうともしないで、当時、神戸の山の手で 一人寂しく暮らしていました。彼と私の祖父とが親しいおつき合いをしていたの で、祖父が亡くなってからもよく祖母の家を訪ねてくれて、私達子供を可愛がっ てくれました。

 彼はまた毎月のように近所の孤児院を尋ねてお金を寄付したり、お菓子を届け たりして可哀想な孤児達を慰めていました。特にクリスマスの頃になると、サン タクロースの衣装をつけ、孤児達へのプレゼントが一杯入っている大きな袋を担 いでいって、みんなを喜ばせました。

 このラバクリさんが亡くなってもう六〇年以上になります。彼からかつてプレ ゼントをもらつた当時の孤児の誰かが、サンタクロースのように優しかったラバ クリおじさんのことを、このクリスマスに思い出して心を暖め直していたらどん なにすばらしいだろうと考えながら、私も彼のことを思い出しています。

 そして暖かい思いが人々の心に伝わっていくようなことをしながら、このクリ スマスを過ごしてみたいものだと思っています。きつとそれが本当のクリスマス の精神なのです。
(by 鴨田増一)