しかし獣に問うてみよ、それはあなたに教える。空の鳥に問うてみよ、それはあ
なたに告げる。あるいは地の草や木に問うてみよ、彼らはあなたに教える。海の
魚もまたあなたに示す。これらすべてのもののうち、いずれか主の手がこれをな
したことを知らぬ者があろうか。すべての生き物の命、およびすべての人の息は
彼の手のうちにある。ヨブ記12:7〜10
ヒグマの冬ごもり
8月の終りの北海道は、太陽がギラギラ照りつけています。けれど、どこかひ
んやりとした風を感じます。ヒグマの毛が、もう冬に備えて、毛変りを始めたよ
うです。なんと準備の早いことでしょう。秋がかけ足でやってきました。
はじめて木の葉に霜が降りた10月23日の朝です。霜柱でボコボコと盛り上
がった土に、人間の両手で作ったほどの、まるい穴があいています。アッ!!ヒ
グマがその中におしりを入れて寝ています。穴はきのうの夜シャベルのような爪
で、チョイと掘ったのです。山には、どんぐりや 山ブドウが沢山なっていて、
木の実は冷たい霜にあたって、ずんと甘くなります。ヒゲマはドンドン食べて、
まるでブドウジャムのようでブドウ酒に似たにおいの糞をいっぱいします。毛皮
の下には、厚さが7、8センチもの脂肪が、たくわえられました。
11月25日の夕方、ヒグマは、体がすっぽり入る2m50c位の穴を3時間
かけて掘りました。前足の爪を使い、みる間に掘りすすみます。夢中で何が近付
いても、ビクともしません。なんとその夜、初雪が降りました。夜雪が降ること
が どうしてわかったのかしら?
きのうの雪は暖かい日差しで消えました。きぴしい冬に入る前のひと休み。食
いだめも終り、冬ごもりの穴も出来あがりました。一日中ひなたぼっこをして過
ごしました。ヒグマが笹を前足や口をつかって、まず入口に積みその後穴の中へ
おしりから入って運んでいます。これで冬の間のフトンの出来上がり。
12月、雪が降っては消える日が続きます。ヒグマは何も食べなくなりました。
おなかの中をきれいにして、冬ごもりするのでしょう。ショボショボした目で、
一日中ぼんやり穴の入り口に座っています。
12月20日、ヒグマの足跡は、もうどこにも見あたりません。あるのは、北
キツネとシベリアから飛んできた小鳥の足跡だけです。とうとう冬ごもりが始ま
りました。穴の入り口には、雪が降りつもります。風の働きで雪の扉が少しずつ
出来ていきます。ヒグマのはく息で、入り口はキラキラ輝いています。2mを超
す穴の中から、ギギーと言うかすかな音がしました。
ヒグマは、一年で一番寒い1月の終り頃、1〜2頭の子供を産みます。穴の中
は、お母さんの体温と空気をたっぷり含んだ雪におおわれ、暖かくていい気持で
す。赤ちやんは、人間の両手にすっぽり入る大きさです。目も耳も閉じネズミそっ
くりです。でも、ツメを見ると、やはりヒグマの子です。まだ立つ事は出来ず、
お母さんの胸に抱かれ、おちちを飲んで眠るだけです。お母さんは、体重が20
0kgもありますが、4ケ月間飲まず食わずですごし、赤ちやんにお乳を与える
のです。
3月、北海道の山は、まだ吹雪が吹きあれています。ンギヤーンギヤー人間の
赤ちやんとそっくりな声が聞こえてきます。子グマが、お乳をねだっているので
す。ブブブ、グググ‥・不思議な音です。お乳を飲み始めたのです。子グマは、
お母さんのおなかから顔を出すようになりました。目や耳が開いてもうハイハイ
もできます。
春になりました。4月5日の夕方6時、ちょうどお日様が山に沈んだ時、ぽっ
かり穴があき、ヒグマの黒い鼻があらわれました。爪で雪をかき、穴から出て来
たのです。冬ごもりをしてから106日ぶりの事でした。体重は、1/4以上も
へりました。動きがゆっくりです。でも、足取りはしっかりしています。朝日が
登り、107日ぶりの明るい世界。ヒグマは、まぶしそうに、目をショボショボ
させて、山のにおいを体いっぱいに吸い込みます。
一番頼りになる鼻で、回りに危険が無い事を確かめて、ゆっくり外へ出ます。
まず雪を食べてのどをうるおし、グルリとあたりを見まわして、歩き始めます。
子グマは、お母さんのあとから、おそるおそるついていきます。冷たい雪に初め
てさわる足の裏をあげさげしています。木や草が芽を出しました。
ヒグマの親子は、雪の上をしりすべりしたり、すもうをとったり、よく遊びま
す。4〜5日は、こうして体の調子をととのえます。そしてフキノトウや新芽を
食べ始めます。さあ、これから山での生活が始まります。5月までお乳を飲んで
いた子グマも、歯がはえそろうと、お母さんの食べる物をいっしょに食べ出しま
す。子グマは 一年間お母さんといつしょに暮らし、生きる知恵を学びます。そ
うして、もう一度お母さんと冬ごもりした後、独り立ちするのです。
(提供:母と子のはこぶね学園)