「あなたの宝はどこに」

 お元気ですか、明智信作です。イエス・キリストは

「あなたの宝のある所には、心もある」

と教えられました。これは、「あなたの心をとらえているものが、あなたの宝で ある」とも言い替えることができます。重い知恵おくれの子供達の施設、止揚学 園の創立者、福井達雨先生が、昆虫学者の友人と京都の盛り場を歩いていたとき のことです。雑踏の中でした。その一緒に歩いていた昆虫学者が、福井先生に、 「オイ、こおろぎの鳴き声が聞こえるぞ」とささやきました。「こんなやかまし いところで、聞こえるもんか」と先生が言いますと、「ほんなら、耳をそばだて てよく聞いてごらん」 それで先生は友人の指さす方に耳を集中させました。す ると確かにビルの片隅で、こおろぎが「リン、リン、リンリン」と泣くのが聞こ えたそうです。福井先生が感心して「こんなやかましいところで、こんなに小さ な声がよく聞こえたなあ」と言いますと、その昆虫学者曰く「ぼくはなあ、昆虫 のことやったら一途なんや。だからどんな小さな鳴き声でも見逃すことはあらへ んのや。人間だれでも一つのことに打ち込むと目に見えないような小さなもので も、見えるんやなあ。その証拠に、今の人間はこおろぎの鳴き声より、もっと小 さな音でも聞こえるもんがあるぞ」「そんな馬鹿なことあるもんか」「うそと思 うんやったら、実験しようか」 こういうとその昆虫学者、ポケットから一枚の 十円銅貨を出し、やにわに放り投げました。十円銅貨は、チリンと小さな音をた てて地面に落ちました。すると、とたんに、今までゾロゾロ歩いていた人たちが 一瞬立ち止まり、十円銅貨の方に一斉に目をやったそうです。その友人が十円銅 貨を拾うと、皆、何事もなかったように歩き出しました。「どうや、小さな音で も聞こえるやろう。今の人間は、目に見えるお金や物を得ることに一途で一生懸 命なんや。それだから、お金の音だったらどんな小さな音でも聞き逃さんのや」 と言ったそうです。あなたの宝はどこにあるでしょうか。
                             (by 明智信作)